バイオニックハンドはロボット工学の第一歩
ロボット革命
ピサ大学のロボット工学教授、かつイタリア、ジェノバのイタリアテクノロジー研究所の上級研究員であるアントニオ・ビッキ(Antonio Bicchi)氏は、人間の手と同等の機能をもつ人工義手 - ソフトハンド - を違和感なく再現するという革命的な研究をしています。ロボットのこれまでの功績、そしてロボットが世に出て30年がたった今、ロボットの未来について語ります。
複雑さがロボット工学の問題点でした。ロボットの機械部品や電子部品が多くなればなるほど、プログラミングが難しくなり、故障のリスクも高くなります。今日、我々は人体が複雑な作業をどのように実行するかをよく理解することで、ロボット工学に革命がもたらされています。最新の神経科学の研究から、身体的行動は脳によって直接制御されているのではなく、私たち自身の体と環境から得るフィードバックに反応することがわかっています。これは、身体化された知能と呼ばれる研究分野、或いは知能が身体と脳の両方を必要とするという概念です。私たちは構成物理学において知能の一部を身体化することでより簡単なデバイスを構築しようとしているため、この考え方はロボット工学に影響を及ぼしていきます。
人工四肢の革命は私のライフワークです。 ピサ大学のソフトハンドプロジェクトは、人間の身体は非常に柔らかくそして強い、という考えを基にしています。というのも、身体は体の知能を利用しているからです。ソフトハンドは強固なプラスチック材料でできており、腱は高強度繊維と弾性靭帯で作られています。コントローラーとモーターは手の中にあり、センサーが埋め込まれた手袋でぴったりと覆われています。当初は、研究のためのロボット義手を開発することを意図していました。今では切断患者の方たちが手軽に手頃な価格で使用できる義手を開発するためにパートナーと協力しています。
既存の義手には2種類があります。1つ目の非常にシンプルなフック型のものは、中世から何らかの形で使用されていていまでも非常に実用的です。2つ目は、これまで、制御が非常に複雑であった、いわゆる人工義手というものです。事実、非常に早く疲れてしまうので、人工義手を手に入れることができる切断患者さえもすぐに放棄してしまいます。私たちは、切断患者の方たちにとって制御が簡単な義手を作りたいと願っていましたが、それを作ることは依然として難しくあるものの、有効といえます。
製作に何ヶ月もかかっていたものが、今や1週間でやり遂げることができます。3Dプリントのようなプロセスを用いたラピッドプロトタイピングにより研究のスピードが大幅に向上します。また、IT分野では様々な開発が行われています。強力なオープンソースソフトウェアにより、誰でもアクセス可能なプログラムを迅速に開発できます。そして、ミドルウェアシステムは、さまざまなソースから来たコードを統合することができます。総合すると、科学技術におけるこれらの大きな進歩により、今までよりもはるかに速いペースで前進することが可能となりました。

ロボットは、安全性の懸念から人間から隔離されていました。しかし私たちは、今や人間と安全に共存できる軽量でソフトな新世代のロボットを開発しています。これらの新しい「コボット」を使用して、私たちはロボットのパラダイムを破壊しています。ロボットはもはや必ずしも重くて剛性の高い構造ではなく、安全で軽量な機械となりつつあります。ロボットを安全にするためにロボットを制御する必要がなくなりました。ロボットを効果的なものにするためにそれらを制御するのです。
この先の問題は、ロボット対ロボットのやり取りです。10年後、20年後には、ロボットはどこにでもいるでしょう。しかし、私たちの個人用ロボットはすべて異なるメーカーによって製造されます。彼らはどのようにお互いに話し合うのでしょうか。彼らは同じリソースのために競合するでしょう。2台のロボットがいずれも、棚に残っている唯一の牛乳瓶を購入する必要があるかもしれません。私たちの将来においてはロボットがロボットと会話することになるため、ロボットが共存できるようなルールが必要になります。

人間と機械の融合はあるところではすでに起こっています。接続されたコンピュータネットワークは、人間の記憶の延長として効果的に働いています。別のところでは、聴覚や網膜インプラント、人工の手と脚、リハビリ用の装具などの人工器官を使用することで、知能マシンと人間の相互作用が始まっています。そして勿論、自動運転車両においてもです。今後は、高齢者の自立性を高める機械や、重機を使用する労働者を支援するための機械を始め、より多くのものを目にすることになるでしょう。